弁護士加藤英典のブログ

埼玉県所沢市の弁護士のブログです。

袴田事件再審開始決定の確定

報道の通り、検察庁が特別抗告を断念し、2023年3月21日0時00分特別抗告期間の経過をもって再審開始決定が確定しました。1981年10月に再審請求を申立ててから41年半、2008年4月に第二次再審請求を申立ててからでも17年の時を経て、再審開始決定が確定しました。
3月13日に東京高裁の決定がでてからは、支援団体はもとより、報道機関、各地の弁護士会等が検察庁に対して特別抗告の断念を求めてくれました。ウェブ上でも動きがあり、弁護団の戸舘弁護士が始めたオンライン書面は短期間で3万8000名を超す署名を集めました。こうした世論の動きが後押しになったと思います。
www.change.org
再審開始決定は確定しましたが、本番の再審公判はこれからです。「無罪の公算大」等と報道されてはいますが、現時点では再審公判で検察官がどのように対応するのかが明らかにされておらず、まだ予断を許さない状況です。

袴田事件即時抗告審決定

3月13日、袴田事件について、差戻後の即時抗告審の決定がなされました。差戻後の東京高等裁判所は、静岡地方裁判所の再審開始決定を支持し、検察官の即時抗告を棄却する決定をしました。
差戻後の即時抗告審では、味噌漬けになった血痕の色の問題が唯一の争点になっていました。東京高等裁判所は、弁護団の主張をほぼ全面的に認め、弁護団が提出したみそ漬け報告書は「1年以上みそ漬けされた5点の衣類の血痕には赤みが残らないことを認定できる新証拠といえる」とし、再審開始決定を支持しました。さらに、「ねつ造」という表現こそ避けていますが、「5点の衣類については、事件から相当期間経過した後に、A(※袴田巌さん)以外の第三者が1号タンク内に隠匿してみそ漬けにした可能性が否定できず(この第三者には捜査機関も含まれ、事実上捜査機関の者による可能性が極めて高いと思われる。)」という、捜査機関のねつ造があったことをほぼ認めました。弁護団からすると完全勝利といってよい内容です。
今後の関心は、検察官が特別抗告をするかに移っています。弁護人としては、検察官が特別抗告をして徒に再審開始決定の確定を遅らせることなく、再審公判に移行されることを願いします。検察官の立場から捜査機関によるねつ造という事実を受け入れ難いとしても、それは再審公判で主張するべきです。

袴田事件差戻審第8回三者協議

袴田事件について、差戻審の第8回三者協議が行われました。
報道されている通り、7月21日、8月1日、5日の3日間で、専門家5名の尋問が行われることが決まりました。また、静岡地方検察庁庁舎内で行われている検察官のみそ漬け実験を2022年11月で終了すること、その際には裁判官が立ち会って、みそ漬けにされた布の血液を直接確認することになりました。
その後のスケジュールは正式には未定ですが、おそらく2022年12月までに検察官・弁護団が最終意見書を提出し、2022年度中に差戻審の判断がでると思われます。

圏央道カルバートボックス事件再審請求

圏央道カルバートボックス事件弁護団は、本日(9月3日)、東京高等裁判所に再審請求を申立てました。私が確定後から弁護団に加わっている事件です。
なお、「圏央道カルバートボックス事件」は、この事件が『冤罪File(2016年7月号)』で取り上げられたときの事件名です。

事案の概要

2012年7月22日、埼玉県坂戸市内の圏央道高架下トンネルであるカルバートボックスに駐車中の自動車内から被害者Aさん(当時33歳)の遺体が発見されました。警察の捜査の結果、Aさんと20年来の友人である櫛田和紀さん(当時34歳)に疑いの目が向けられました。櫛田さんは、2012年9月3日、Aさんを被害者とする傷害事件の容疑で逮捕されます。
櫛田さんは、Aさんを被害者とする傷害致死事件と同じくAさんを被害者とする傷害事件2件に関して公判請求されました。櫛田さんはいずれの事件も自らが犯人でないと主張しました。一審のさいたま地方裁判所は、裁判員裁判での審理を経て、2014年2月、傷害罪2件については無罪としながらも、傷害致死罪については櫛田さんを犯人と認め、懲役13年の判決を言渡しました。
控訴審東京高等裁判所は、2014年12月、一審の審理に手続上の違反があると原判決を破棄し、改めて懲役13年の判決を言渡しました。
その後、最高裁が上告を棄却し、控訴審の判決が確定しました。現在、櫛田さんは山形刑務所で服役しています。

確定判決の認定理由

櫛田さんが犯人と認定された理由は、①Aさんの受傷は、棒状の部分を有する硬固な鈍体で打撲して生じた可能性が高く、即死ではなく、受傷から死亡まで半日程度は存命であったというB医師の鑑定、②Aさんの受傷した可能性のある7月20日、櫛田さんはAさんと接触していたとみられること、③櫛田さんとAさんには「支配服従関係」があり、Aさんは立ったまま手をバンザイさせたような状態で、凶器で何度も叩かれるという特異な受傷をしており、櫛田さん以外の人物が犯人とは考えがたいこと等です。

新証拠

判決確定後に弁護団がC医師に鑑定を依頼したところ、B医師の鑑定は極めて杜撰なものであり、①Aさんの死亡日は7月21日であること、②Aさんの受傷は凶器で叩かれたのではなく自動車のタイヤで轢かれたもので即死であり、受傷日も7月21日であること等が判明しました。C医師の鑑定によれば、原判決が櫛田さんを犯人と認定した根拠が崩れることになります。
弁護団は、C医師の鑑定を新証拠として再審請求を申立てました。

確定判決の問題点

確定判決は、傷害致死罪という重大な事件について、極めて杜撰な鑑定に基づき、乏しい間接事実から強引に櫛田さんを犯人と認定しています。
裁判員裁判の第一審では、検察官が櫛田さんとAさんとの間の「支配服従関係」を強調しています。このため、裁判員が「櫛田さんはこんなひどいことする人なのだから、Aさんを殺してもおかしくはない」という櫛田さんに対する偏見を抱いていた節があります。控訴審は、手続上の違法を理由に原判決を破棄してはいるものの、櫛田さんが犯人か否かの事実認定の枠組は一審判決を踏襲しています。裁判員裁判には様々な意見がありますが、この事件に関しては裁判員裁判のよくないところが前面にでてしまった事件と思います。
再審請求審では、こうした確定判決の問題を明らかにしていきます。

袴田事件即時抗告審決定と映画『獄友』

袴田事件について、2018年6月11日に東京高裁の不当決定(原決定取消・再審請求棄却)がでてから、早2か月が経ちました。決定直後はその現実をにわかに受入れることができず、そうは言っても特別抗告申立期限は実質1週間しかないので、特別抗告申立書作成の作業をしなければならず、あっという間に時が過ぎていきました。報道の通り、弁護団は、6月18日には特別抗告申立をし、7月23日にはDNA鑑定に関する補充書も提出しました。弁護団としては、これまでの書面で既に東京高裁決定の不当性は明らかになったと考えていますが、最高裁の実情に鑑み、今後の特別審をどのように戦っていくかを議論しているところです。
ところで、去る8月10日、浦和パルコにて埼玉弁護士会主催の映画『獄友』上映会が開催されました。私も、スタッフとして参加してきました。
『獄友』は、狭山事件石川一雄さんを始めとする「冤罪被害者」の絆を描いたドキュメンタリー映画です。
ドキュメンタリー映画 「獄友」
上映会は大盛況で、上映が終了すると会場内から自然に拍手が湧き上がっていました。
『獄友』では、釈放後の袴田巌さんの日常生活も描かれていました。先日の東京高裁決定は、地裁の再審開始決定を取消しながら、なぜか拘置の執行停止の効力は維持しました。ですが、今後、最高裁が特別抗告申立を棄却するようなことがあれば、刑の執行停止は当然に効力を失い、巌さんは再び拘置されることになります。そのときには、巌さんは、映画で描かれているような浜松でのお姉さんとの生活を突然打ち切られ、再び東京拘置所の確定死刑囚の房に戻らなければなりません。
スクリーンに映し出されている巌さんの日常生活を守るために、これから私は何をするべきなのかを考えながら、映画を観ていました。