弁護士加藤英典のブログ

埼玉県所沢市の弁護士のブログです。

圏央道カルバートボックス事件再審請求

圏央道カルバートボックス事件弁護団は、本日(9月3日)、東京高等裁判所に再審請求を申立てました。私が確定後から弁護団に加わっている事件です。
なお、「圏央道カルバートボックス事件」は、この事件が『冤罪File(2016年7月号)』で取り上げられたときの事件名です。

事案の概要

2012年7月22日、埼玉県坂戸市内の圏央道高架下トンネルであるカルバートボックスに駐車中の自動車内から被害者Aさん(当時33歳)の遺体が発見されました。警察の捜査の結果、Aさんと20年来の友人である櫛田和紀さん(当時34歳)に疑いの目が向けられました。櫛田さんは、2012年9月3日、Aさんを被害者とする傷害事件の容疑で逮捕されます。
櫛田さんは、Aさんを被害者とする傷害致死事件と同じくAさんを被害者とする傷害事件2件に関して公判請求されました。櫛田さんはいずれの事件も自らが犯人でないと主張しました。一審のさいたま地方裁判所は、裁判員裁判での審理を経て、2014年2月、傷害罪2件については無罪としながらも、傷害致死罪については櫛田さんを犯人と認め、懲役13年の判決を言渡しました。
控訴審東京高等裁判所は、2014年12月、一審の審理に手続上の違反があると原判決を破棄し、改めて懲役13年の判決を言渡しました。
その後、最高裁が上告を棄却し、控訴審の判決が確定しました。現在、櫛田さんは山形刑務所で服役しています。

確定判決の認定理由

櫛田さんが犯人と認定された理由は、①Aさんの受傷は、棒状の部分を有する硬固な鈍体で打撲して生じた可能性が高く、即死ではなく、受傷から死亡まで半日程度は存命であったというB医師の鑑定、②Aさんの受傷した可能性のある7月20日、櫛田さんはAさんと接触していたとみられること、③櫛田さんとAさんには「支配服従関係」があり、Aさんは立ったまま手をバンザイさせたような状態で、凶器で何度も叩かれるという特異な受傷をしており、櫛田さん以外の人物が犯人とは考えがたいこと等です。

新証拠

判決確定後に弁護団がC医師に鑑定を依頼したところ、B医師の鑑定は極めて杜撰なものであり、①Aさんの死亡日は7月21日であること、②Aさんの受傷は凶器で叩かれたのではなく自動車のタイヤで轢かれたもので即死であり、受傷日も7月21日であること等が判明しました。C医師の鑑定によれば、原判決が櫛田さんを犯人と認定した根拠が崩れることになります。
弁護団は、C医師の鑑定を新証拠として再審請求を申立てました。

確定判決の問題点

確定判決は、傷害致死罪という重大な事件について、極めて杜撰な鑑定に基づき、乏しい間接事実から強引に櫛田さんを犯人と認定しています。
裁判員裁判の第一審では、検察官が櫛田さんとAさんとの間の「支配服従関係」を強調しています。このため、裁判員が「櫛田さんはこんなひどいことする人なのだから、Aさんを殺してもおかしくはない」という櫛田さんに対する偏見を抱いていた節があります。控訴審は、手続上の違法を理由に原判決を破棄してはいるものの、櫛田さんが犯人か否かの事実認定の枠組は一審判決を踏襲しています。裁判員裁判には様々な意見がありますが、この事件に関しては裁判員裁判のよくないところが前面にでてしまった事件と思います。
再審請求審では、こうした確定判決の問題を明らかにしていきます。