『袴田巌 夢の間の世の中』
私が弁護団員をしている袴田事件を題材にした映画「袴田事件 夢の間の世の中」が2016年2月から各地の映画館で公開されます。
www.youtube.com
釈放後の袴田巌さんとお姉さん(袴田秀子さん)の日常を撮影したドキュメンタリー映画です。
私も関係者向けの試写会で見せていただきましたが、浜松での巌さんの生活の様子やその中で巌さんの表情が徐々に明るくなっている様子には感慨深いものがありました。
映画は、巌さんや秀子さんのキャラクターの面白さにあふれていました。再審事件を題材にした映画だというのに、なぜか試写会では観客席から笑い声があがっていました。
劇中の後半、巌さんが後楽園ホールでボクシングを観戦したとき、予定になかったのにリングにあがりだす場面がありました。やはり巌さんにとってボクシングは特別な思いがあるのでしょうか。
それを見ていて思い出したのが、再審開始決定の翌日のことです。その日、私は巌さんが宿泊していたホテルから都内の病院に移動し、入院の手続をとるのに付添っていました。私達弁護団員や支援者の方が巌さんに話しかけても、巌さんには反応らしい反応がなく、47年以上に渡って拘束されたきた傷の深さが感じられました。ところで、この日、秀子さんはボクシング関係のイベントに参加しており、病院への到着が遅れていました。私は、病室の巌さんに「ボクシング協会の人にはお世話になったから、元気になったら、巌さんもお礼に行きましょうね」と話かけました。巌さんは「ボクシング」という言葉に反応し、しばらく考え込む様子をした後、「ボクシングはいい。ボクシングをやると根性がつく」と呟きました。私は、ボクシングのことには反応するのか、ボクシングというとまず「根性」という言葉がでてくるのはさすが年間試合数の日本記録保持者*1だ、と感心したものです。
あの再審開始決定翌日の巌さんと劇中後半の巌さんを比べると、人間の心は47年以上の身体拘束による傷からもここまで回復できるものなのかと驚きます。
弁護団員としては、多くの方々にこの映画を見ていただき、この巌さんを再び東京拘置所の確定死刑囚の房に連れ戻すことは許されるのか、現在も東京高裁で継続中のこの事件のことに思いを馳せていただきたいと思います。