弁護士加藤英典のブログ

埼玉県所沢市の弁護士のブログです。

河本さんは不正受給ではありません

5月25日は、名張事件決定、神奈川アスベスト訴訟判決、大阪イレッサ判決と厳しい裁判が続きました。名張事件は、再審開始決定が有力視されていたので、ショックが大きいです。
そんな25日に、マスコミでもっとも話題になっていたのは、次長課長の河本さんに関する生活保護の話題のようです。

もっと自分がしっかりしていれば…河本準一さん涙で会見
http://news.livedoor.com/article/detail/6592147/

マスコミは、河本さんを激しく非難しています。しかし、生活保護に取組む弁護士からすると、マスコミや政府の反応には疑問があります。
はっきりしているのは、報道されている事実関係からすると、河本さん親子のやっていたことは生活保護の「不正受給」ではないということです。
河本さんが現に母親に十分な仕送りをし、仕送りだけで生活できるのであれば、母親は生活保護を受けることができません。他方、母親に仕送りをしていなかった、又は仕送りとしていてもその金額だけでは生活することができないのであれば、母親は生活保護を受けることができます。このことは、河本さんの収入がいくらであっても変わりがありません。仕送りをする能力があるかと、現に仕送りをしているかは別なのです。親族にいくら仕送りをする能力があっても、現に仕送りをもらっていないのであれば、生活保護を受給することは不正受給にはなりません。
報道によれば、福祉事務所は、母親に生活保護を開始した後、河本さんに仕送りが可能かを照会したとのことです。これに対して、河本さんは、そのときの自身の状況を考えた上で、可能な限りの仕送りをすると回答し、現に仕送りをしてきたとのことです。この一連の経緯でも、河本さんは福祉事務所に対して誠実に対応していたようです。河本さんが福祉事務所に対して自身の収入や資産に関して虚偽の報告をしていたのであれば、河本さんは非難されて然るべきですが、そのような事実は報道されていません。
河本さん親子は、法に反することは行っていないのです。それにもかかわらず、河本さん親子が犯罪行為をしていたかのように騒がれているのが不思議でなりません。
私は、この件が生活保護の実務に影響することを懸念しています。役所の担当者は、「次長課長の河本さんを知っていますよね。あの人の件のように、親族で仕送りができる人がいると、保護は受けられないんですよ。息子さんが勤めをしているのであれば、保護は受けられませんよ。まずは息子さんに相談してください。」などと、水際作戦にこの件を利用すると思います。そのときに、生活保護を受給しようとする方が、福祉事務所の説明がおかしいと気づくことができるのでしょうか。この件によって、本来であれば生活保護を受給できるはずなのに、生活保護を受給できない方が現れてもおかしくはありません。