弁護士加藤英典のブログ

埼玉県所沢市の弁護士のブログです。

刑事拘禁制度改革に関する勉強会

※このエントリーは、『刑事拘禁制度改革実現本部ニュース』40号(日本弁護士連合会刑事拘禁制度改革実現本部編)に寄稿した文章をブログ用に編集したものです。

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日弁連刑事拘禁制度改革実現本部は、2017年3月6日、村井敏邦氏(一橋大学名誉教授)と赤池一将氏(龍谷大学法学部法律学科教授)をお招きして刑罰制度改革に関する勉強会を行いました。
昨年10月に福井市で開かれた人権擁護大会において、日弁連は「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択しました。同宣言では、刑罰制度全体を罪を犯した人の真の改善更生と社会復帰を志向するものへと改革することを求め、具体的には懲役刑と禁錮刑を拘禁刑として一元化し、刑務所における強制労働を廃止して賃金制を採用すること等を宣言しています。
その後、刑罰制度改革に関しては、法務省側にも動きがありました。2016年12月、法務省内の「若年者に対する刑事法制の在り方に関する勉強会」は、取りまとめ報告書を公表しました。同報告書は、少年法の適用年齢を18歳未満に引下げることに関して賛否両論を併記し、若年受刑者の改善更生という観点から自由刑の単一化も検討されています。ただし、ここでの単一化論は、受刑者に刑務作業を含めた各種の矯正処遇を義務づけるものです。
さらに、法務大臣は、2017年2月9日、犯罪者に対する処遇を一層充実させるための刑事の実体法及び手続法の整備のあり方等について法制審議会に諮問しました。
刑事拘禁制度改革実本部では、このような昨今の情勢を踏まえて勉強会を行いました。

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赤池氏は、「勉強会」の報告書を批判的に検討し、自由刑の単一化論を振返ります。
最近では川出敏裕氏(東京大学大学院法学政治研究科教授)が、「自由刑における矯正処遇の法的位置づけについて」(2016年)等で自由刑の単一化論を展開しています。川出氏は、「勉強会」のアドバイザーです。
2000年改正の少年法では、少年が16歳に達するまでの間は少年院で懲役刑・禁錮刑の執行をすることができ、その少年には矯正教育を授ける旨の規定が設けられました(少年法56条3項)。これによって、現行刑法の下で懲役刑と刑務作業を切り話されることになりました。また、禁錮刑受刑者も、懲役刑受刑者と同様に矯正教育が行われることになり、刑の執行の場面において懲役刑と禁錮刑の区別がなくなりました。この改正は、限られた場面とはいえ、現行刑法の懲役・禁錮刑の内容と分離して、矯正施設における処遇内容を定めたという意義があります。
その後、刑事被収容者処遇法では、この考え方を一般化し、矯正処遇として、刑務作業に加えて、改善指導と教科指導をあげ(同法84条1項)、刑法に根拠規定のない改善指導と教科指導の根拠規定を置きました(同法103条、104条)。遵守事項に違反した場合には、懲罰の対象になり得ます。川出氏としては、刑法に根拠がない矯正処遇を受刑者に義務づけることが許されるのは、懲役刑・禁錮刑の目的には改善更生による社会復帰が含まれており、目的達成に必要な範囲で受刑者の権利を制限し、義務を課すことが許されるからというのです。
川出氏の考え方によれば、拘置とは、身柄の収容だけではなく、義務づけられた作業・指導という広義の処遇が含まれることになります。しかし、これは、マンデラ・ルール等の国際的な潮流とは異質の考え方です。

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村井氏は、法務大臣の諮問は、少年法適用年齢引き下げと犯罪者の処遇という本来は別個の問題を一緒にしていると指摘します。
そもそも自由刑の単一化論の基礎は、刑務作業の強制の禁止にあります。受刑者に強制労働を課すことは、自由権規約8条3項(a)に違反します。同項(b)では、一定の場合には重労働を課すことを認めているのであり、刑罰としての強制労働を認めているのではありません。
矯正処遇を受刑者に強制することは、社会復帰を積極的に推し進めるために援助の機会を提供する考え方とは相容れません。受刑者の自主性を重視する方向に転換すべきです。
さらに、川出氏の論文は、形式的な法文解釈に終始しており、刑務作業や矯正処遇に対する基本的な考え方が存在しない等と厳しく批判しました。

講演後は意見交換が行われ、今後の法制審議会で懲役刑と禁錮刑を拘禁刑として一元化し、刑務所における強制労働を廃止するという日弁連の意見をどのように反映させていくかが議論されました。委員からは、取りまとめの報告書の中に見られる検察官の権限拡大を懸念する指摘もありました。村井氏と赤池氏からは、法務省の動きに対して、あるべき方向性と逆方向に事が進まないように日弁連が奮起することを促され、私達に大きな課題が課せられました。

袴田事件第二次再審請求即時抗告審~DNA鑑定実施を強行した裁判所~

  • ※このエントリーは、『再審通信』111号(日本弁護士連合会人権擁護委員会編)に寄稿した文章をブログ用に編集したものです。

事件発生から半世紀

袴田事件は、1966年6月30日未明、静岡県清水市(当時)内の味噌製造会社役員宅で一家4名が殺害された強盗殺人・放火事件です。静岡地裁は、1968年9月、味噌製造会社従業員の袴田巌さんを事件の犯人と断定し、死刑判決を言い渡しました。死刑判決は、1980年11月、最高裁で確定しました。しかし、袴田さんは第一審の公判から一貫して自らは犯人ではないと主張してきました。
27年間に及んだ第一次再審請求審(1981年4月~2008年3月)により再審請求棄却決定が確定すると、弁護団は2008年4月に第二次再審請求を申し立てました。6年間の審理を経て、静岡地裁は2014年3月27日再審開始を決定しました。さらに、静岡地裁は死刑及び拘置の執行停止を決定し、袴田さんは決定当日に釈放されました。その後、検察官が即時抗告を申し立て、現在、即時抗告審が東京高裁第8刑事部に継続中です。袴田さんが釈放されたとはいえ、再審開始決定は確定しておらず、袴田さんの地位は確定死刑囚のままです。
間もなく事件発生から半世紀になります。当時30歳の青年であった袴田さんは、今年3月に80歳の誕生日を迎えた。節目の年となり、積み重ねられてきた年月の重みを感じるとともに、いまだに事件が解決していないことに忸怩たる思いです。

裁判所がDNA鑑定実施を強行

東京高裁における即時抗告審では継続的に三者協議を実施しています。三者協議は2016年3月に17回目を数えました。即時抗告審における最大の争点は、DNA鑑定です。
原審では、これまで決定的証拠とされてきた5点の衣類等のDNA鑑定が実施されました。鑑定人の一人は、足利事件等でも鑑定人を務めた本田克也教授(筑波大学)です。本田鑑定の結果、5点の衣類は、犯行着衣ではなく、袴田さんのものではないことが明らかになりました。静岡地裁は、本田鑑定等を新証拠とし、5点の衣類を警察がねつ造した疑いがあるとして、袴田さんが犯人であることを裏付ける証拠は存在しないと判断しました。
本田鑑定については、原審の段階から検察官が激しく批判してきました。即時抗告審でもその批判は衰えることなく、ありとあらゆる資源を活用して本田鑑定を徹底的に攻撃しています。このような検察官の批判に対して、弁護団は適宜反論し、検察官の主張をことごとく論破してきました。本田鑑定の信用性に関する議論は、既に決着しています。
ところが、東京高裁は、本田鑑定の信用性に関して、即時抗告審で鑑定を実施する意向を示してきました。弁護団は、本来であれば鑑定は不必要ではあるものの、裁判所の疑問を解消するために鑑定に協力することは致し方ないという態度をとってきました。しかし、鑑定の条件設定を協議する中で、裁判所の目論んでいる条件設定が明らかに不適切であり、誤った判断を導く可能性があることから、弁護団としては鑑定に協力できないという態度をとるに至りました。それにもかかわらず、裁判所は、2015年12月7日鑑定実施を決定しました。鑑定人は検察官推薦の法医学者1名です。弁護団は、同月25日に証拠取調決定に対する異議を申し立てましたが、即日棄却されました。棄却決定は、「本件異議申立を棄却する」という主文のみであり、理由は一言も書かれていません。

不当なDNA鑑定決定

東京高裁の鑑定決定には次のような問題があります。
本田鑑定は、試料からDNAを抽出する過程で、血液由来のDNAを選択的に抽出する方法(以下「選択的抽出法」といいます。)を用いています。この方法は本田教授のオリジナルであり、鑑定実施後に本田教授が論文化して権威ある国際的な論文誌に掲載され、高い評価を得ています。
この選択的抽出法については、原審の段階から古い血痕には効果がない等と検察官が批判してきました。東京高裁は、検察官からの批判を踏まえて、選択的抽出法の効果を確認するために鑑定を実施することを決定しました。鑑定事項は3つに分けられています。
1つ目は、新鮮な血液を新鮮な唾液と混合させたものを試料とし、選択的抽出法の効果を確認するというものです。これは、本田鑑定人が鑑定前の予備実験として実施した方法であり、適切な手順を踏めば血液由来のDNAが検出されます。
2つ目は、法医学教室に保管されている古い血液が付着したガーゼを試料として、選択的抽出法の効果を確認するというものです。これも、血液由来のDNAが残存している試料であれば、適切な手順を踏めば血液由来のDNAが検出される可能性が高いです。
問題は3つ目です。上述の古い血液が付着したガーゼに、薄めた新鮮な唾液を付着させたものを試料とし、選択的抽出法の効果を確認するというものです。唾液を薄めるのは、古い血液のDNAが分断・劣化しているのに対して、新鮮な唾液はDNAが良好な状態ですから、単に新鮮な唾液を付着させると、選択的抽出法を用いても新鮮な唾液に由来するDNAのみが検出される可能性が高いからです。そこで、唾液を薄めてDNAの量を調整するというのです。
しかし、3つ目の条件設定は妥当ではありません。唾液を薄めてDNAの量を調整するといいますが、そのような調整は実際には困難であることが予想されます。検察官は調整が可能と主張していますが、その根拠となっている報告書は一研究者のアイディアを記述したものにすぎず、実験として調整可能であることを確認したわけではありませんし、DNAの量を調整する具体的な手順を検討したわけでもありません。鑑定の結果をどのように評価するのかも不明確であり、鑑定後に議論が錯綜するおそれがあります。何より、これは「鑑定」とは言いながらも、実質的には科学実験であり、再審請求の審理の中で行うべきことではありません。このように3つ目の条件設定は非常に問題があります。
そもそも、原審は、本田鑑定の信用性を肯定したものの、選択的抽出法を高く評価していません。原審における検察官の批判を踏まえて、古い血痕を対象としたときに選択的抽出法に効果があるかは必ずしも明らかではないとしながらも、対照試料からDNAが検出されていないことや試料に血液が付着している蓋然性があること等の他の事情を踏まえて、本田鑑定の信用性を肯定しているのです。仮に、検察官の主張どおりに選択的抽出法が古い血痕を対象としたときに効果がなかったとしても、本田鑑定の信用性が直ちに否定されるという関係にはないのです。この論理は、即時抗告審でも弁護団が再三主張し、検察官は適切な再反論をしていません。本来であれば、即時抗告審での鑑定は不必要なのです。
弁護団は、東京高裁がどうしても選択的抽出法の効果に疑問があるのであれば、その疑問を解消するために、1つ目と2つ目の鑑定には協力することは致し方ないとして、弁護人推薦鑑定人候補者の準備もしていました。しかし、裁判所が3つ目の鑑定も実施することに固執したため、鑑定そのものに協力するわけにはいかなくなったのです。
ともあれ、現に鑑定実施は決定され、検察官推薦の鑑定人が鑑定を進めています。弁護団は、東京高裁の不当な決定を批判しつつ、鑑定結果に対する対応の準備を進めています。

取調録音テープと元警察官の証人尋問請求

即時抗告審段階において、オープンリール23巻分の取調録音テープが開示されました。弁護団による反訳作業が行われ、録音されている取調日時や取調官の特定が進められました。今後、捜査機関による違法な取調の全貌が明らかにされることになります。
また、弁護団は、2016年3月24日、事件発生当時の捜査に関わった元警察官2名の証人尋問を請求した。うち1名は、事件直後の捜索の際、「5点の衣類」が隠されていたとされる味噌タンクの中に衣類が入っていなかった旨を弁護人に供述しています。残る1名は、「5点の衣類」が袴田さんのものであることを裏付けるとされるズボンの共布について、袴田さんの実家の捜索の際、共布が外部から捜索場所に持ち込まれたことをうかがわせる事実を弁護人に供述しています。元警察官らの供述内容は、警察によるねつ造の存在を推認させる重要なものです。
いまだ証人の採否は判断されていませんが、元警察官らが高齢であり、今後証言が困難になるおそれがあることから、早急に証人尋問が実施されるべきです。

ドキュメンタリー映画「袴田巖 夢の間の世の中」

現在の袴田さんは、静岡県浜松市内で実姉の袴田秀子さんと生活しています。その生活の様子を記録したドキュメンタリー映画「袴田巖 夢の間の世の中」(金聖雄監督)が2016年2月から全国の映画館で順次上映されています。
映画は、袴田さんの日々の生活を丁寧に描いています。長年の身体拘束による拘禁症の症状があるものの、表情が明るくなっていく等回復の兆しが見て取れます。弁護人としては、スクリーンに映される袴田さんの穏やかな生活を目にし、感動するとともに、この生活が二度と壊されることがないように、速やかな再審開始の確定、再審公判、そして無罪判決を目指したいと考えています。

有罪率99.9%?

「99.9 刑事専門弁護士」

17日からTBSでドラマ「99.9 刑事専門弁護士」が始まりました。同業者の間でも話題になっています。
www.tbs.co.jp
私も第1話を視聴しましたが、日本のテレビドラマにしてはめずらしく尋問のシーン等がしっかりと作られているのに感心しました。著名な高野隆弁護士らが取材協力をなさっていると視聴後に知り、納得しました。

有罪率99.9%?

ちょっと気になっているのが、この番組のタイトルです。タイトルの「99.9」は、日本の刑事裁判の有罪率の高さを示しています。この数字からは、日本の刑事裁判では、弁護人の主張がほとんど認められないようにも見えます。作中でも、自分は犯人ではないと供述するクライアントが起訴され、事務所内で弁護方針をめぐって議論をする中で、有罪率が99.9%の日本の刑事裁判では争っても勝ち目はないのだから、罪を認めたうえで情状弁護をした方がクライアントの利益になる、という意見が述べられる場面もありました。
現実では、2014(平成24)年の司法統計によれば、2014年に地裁で言い渡された終局判決の内、有罪判決は5万1389件です。これに対して、無罪判決はわずか109件です。有罪率99.9%は言い過ぎですが、ほとんどが有罪判決で、無罪判決の割合はごく僅かです。
ですが、無罪判決が少ないからといって、弁護人の主張がほとんど認められないというわけではありません。

多くの刑事裁判は自白事件

そもそも、弁護人が法廷で事実関係を争うこと自体が少ないのです。
刑事裁判の多くは、事実関係に争いのない事件(自白事件)です。事実関係を争う事件(否認事件)は少ないのです。ほとんどの自白事件では、捜査段階から被疑者自身が罪を認めており、事実関係を争う必要がないのです。弁護人としては、有罪になることを前提に、できる限り刑が軽くなるように弁護活動をします。この場合、無罪判決にはなりようがありません。

否認事件が無罪主張とは限らない

否認事件でも、無罪主張をするとは限りません。
例えば、被告人が殺意をもって被害者をナイフで刺して負傷させたという事実で殺人未遂罪で起訴されたとします。被告人が、自分の持っていたナイフが被害者を刺さって負傷させたという限りでは認めながらも、被害者にナイフを突き付けて脅そうとしたら被害者の抵抗にあって誤ってナイフが被害者に刺さってしまったのであり、ナイフを被害者に刺すつもりはなかった等と弁解したとします。この場合、裁判では被告人に殺意があったのかが争点になります。殺意の存在に合理な疑いをいれる余地があれば、被告人は殺人未遂罪ではなく傷害罪で有罪判決を言渡されます(認定落ち)。このような場合、弁護人の主張が全面的に認められても無罪判決にはなりません。

なんちゃって否認事件もある

無罪主張をする事件でも、勝ち目がある事件とは限りません。
弁護人が無罪主張をしている事件でも、本気で無罪判決を狙える事件とは限らないのです。被告人の中には色々な人がいまして、その中には、客観的な証拠が揃っており、誰がどう見ても被告人が犯人であることが明らかであるにもかかわらず、自分は犯人ではない等と不合理な弁解する被告人もいます。この場合、弁護士の判断で被告人の意向に反して犯人であると認めることは、弁護士の倫理では許されません。被告人が自分は犯人ではないと弁解している以上、弁護人は内心でどのように考えていようと法廷では無罪主張をします。このような事件を自虐的に「なんちゃって否認事件」と呼ぶ弁護士もいます。当然有罪判決になります。

有罪率99%の意味

ドラマや映画でしか刑事裁判を知らない方は、刑事裁判というと何となく弁護人が無罪主張をする事件を想像するかもしれませんが、実際には無罪主張をする事件は少ないのです。弁護士の中には、「何年も刑事事件をやっているけれど、1回も無罪主張をしたことがない」と言う方もいます。しかも、無罪主張をする事件の中でも、弁護士の目から見て勝ち目がある事件はさらに少ないのです。弁護人が無罪主張し、勝ち目がある事件となると、事件数は相当少なくなると思います。その中で無罪判決となると全体の1%を下回るのです。
個々の判決を検討すると、弁護人の主張がなかなか認められず、裁判所の判断は検察官寄りではないかと思うことはあります。それは刑事事件に関わる弁護士であれば、多かれ少なかれ感じていることでしょう。ですが、それはあくまでも個々の判決の積み重ねからであって、統計で全体の99%以上が有罪判決だからというわけではありません。

「望むのは死刑ですか 考え悩む”世論”」

2月3日にドキュメンタリー映画「望のは死刑ですか 考え悩む”世論”」の上映会(埼玉弁護士会主催)に参加してきました。
nozomu-shikei.wix.com
映画のもとになっているのは、2015年に日本で実施された審議型意識調査です。
日本国は死刑制度を存置しており、その根拠として、世論調査において国民の8割が死刑制度存置に賛成していること等を挙げています。ところが、この世論調査については、アンケートの質問文が不適切であり、死刑制度存置が多数になるように誘導している等の批判があります。
劇中の審議型意識調査では、無作為で選出された参加者を会場に集め、死刑制度に関する情報を与え、存置派・廃止派を交えて議論をし、熟慮を経た上で、改めて死刑制度の存廃についての意見を回答してもらいます。このような方法で、何が本当の国民の意見なのかを考えていくのです。
参加者の中には、議論の中で自らの意見を変える方もいました。また、中には頑なに自らの意見を変えようとしない方もいました。映画では、そうした一人一人の参加者を丁寧に記録しています。
参加者の内何名かはわずか2日間の調査の間に意見を変えており、アンケートによる世論調査の結果が移ろいやすいものであることがうかがえました。その一方で、参加者全体で見てみると、存置・廃止の意見の割合は調査前と調査後とでほとんど変わっていないという結果になりました。私もなんとなく「死刑制度に関する十分な情報が与えられれば、廃止に傾く」と思っていたのですが、そんなに単純な話ではないようです。
審議型意識調査という調査方法が日本ではなじみが薄いということもあり、非常に興味深かったです。弁護士会の会長声明等で「死刑制度廃止に向けた国民的議論をすべき」と書かれていると、何をもって国民的議論とするのかがピンとこなかったのですが、ヒントになったような気がします。
映画は、2月11日から各地の劇場で上映されています。

法廷傍聴ガイド

先日、知人が「裁判の傍聴をしてみたいが、何をどうしたらよいのかわからない」と言うので、東京の裁判所で待ち合わせをして、法廷傍聴の案内をしました。
知人のような方が他にもいるかもしれないと思い、簡単な法廷傍聴の案内を書いてみます。
なお、以下の案内は東京の裁判所(東京地方裁判所本庁)で傍聴することを前提に書いています。裁判所の実情は各裁判所で微妙に異なります。

どこに行けばよいの?

東京の裁判所は、地下鉄霞が関駅が最寄り駅です。霞が関駅を降りたら、A1出口から地上に出てください。A1出口を出て、1分程あるけば、東京の裁判所の正門があります。正門付近には人が集まって、ビラを配ったり、スピーカーを手に声を張り上げているので、すぐにわかると思います。

いつ行けばよいの?

東京の裁判所であれば、平日の何曜日に行っても構いません。
午前中の公判は午前10時開廷または午前11時開廷のことが多いので、可能であれば午前10時少し前に裁判所に着いた方がよいです。午後であれば、昼休み明けの早い時間に着いた方がよいです。

予約は要らないの?どの事件でも傍聴できるの?

事前予約は不要です。公開法廷ですから、原則としてどの事件も自由に傍聴できます。
例外は、傍聴券配布事件です。マスコミで大きく報道されている事件のように、傍聴希望者が多数になることが予想される事件は、傍聴券配布事件になります。この場合、事前に傍聴希望者を募って抽選を行い、当選した人に傍聴券を配布して、傍聴券を持っている人だけが傍聴できます。どのような事件が傍聴券配布事件になっているかは、各裁判所のホームページ等で事前に確認できます。

どんな服装で行けばよいの?

仕事で傍聴するわけではないのですから、スーツで行く必要はありません。私服で構いません。とはいえ、法廷は厳粛な場ですから、奇抜な服装や余りにもラフな服装は避けた方がよいでしょう。

裁判所に入るときの注意は?

東京の裁判所では、一般の方が建物内に入るときに手荷物検査があります。空港で飛行機に乗る前に受ける検査をイメージしてください。スムーズに入るために、余分な手荷物は持ってこない方がよいでしょう。

どのように事件を選ぶの?

裁判所に入ると広いロビーになっています。ロビのー奥にカウンターのような場所があり、そこに当日の開廷表一覧が置かれています。開廷表には、どの法廷でどのような事件の期日が行われるのかが記載されています。
開廷表一覧はいくつかあるのですが、初めてであれば東京地方裁判所刑事の開廷表を探して、その中で事件を探すとよいでしょう。

どんな事件を選べばよいの?

開廷表には、開始時刻・終了時刻、事件番号・事件名、被告人の氏名、審理予定、担当部係等が記載されています。
事件名を見れば、どのような事件なのかがおおよそわかります。関心がある事件を探してください。
審理予定を見れば、その事件の進行状況がわかります。「新件」は、その日が第1回公判期日ということです。「審理」は、第2回以降の公判期日で、前回の続きを審理するということです。「判決」は、既に審理を終えており、裁判所が被告人に対して判決を言渡すということです。初めてであれば、「新件」の事件を傍聴するとよいでしょう。
開始時刻・終了時刻を見て、どの事件を傍聴するのか当日の予定をたて、その場でメモをした方がよいでしょう。

法廷へ移動するには?

開廷表で事件を選んだら、法廷に向かってください。ロビーの奥に館内の案内がありますから、参考にしてください。
東京の裁判所では、法廷は上の階にありますから、エレベーターで上の階に上がります。時間帯によってはエレベーターがかなり混み合いますから、目当ての事件があるのであれば、時間には余裕をもって移動してください。
目的の階に着くと、エレベーターを降りたところにフロアマップがありますから、目的の法廷を探してください。各法廷の入口付近には開廷表がありますから、目当ての事件があるのか確認してください。
法廷の入口は、「検察官・弁護人用」の入口と「傍聴人用」の入口があります。「傍聴人用」の入口から入ってください。
入口のドアには小窓があります。小窓を開けると、法廷の中の様子を見ることができます。
開廷まで時間があるようですと、入口のドアに鍵がかかったままで、中に入れないことがあります。法廷の近くに一般用待合室がありますから、そこでお座りになってお待ちください。

法廷で気をつけることは?

法廷に入り、傍聴席に座ってください。空いている席がないときは、残念ながらその事件の傍聴はできません。立ち見は禁止されています。空いていれば、どこの席に座ってもよいことです。
法廷では携帯電話の音が鳴らないようにしてください。法廷内ではバイブレーションの音が響きますから、通常のマナーモードにするのではなく、サイレントマナーモードにするのか、電源をオフにしてください。
開廷前に裁判が入廷したときと閉廷するときには、傍聴人も起立して正面に礼をすることになっています。よくわからないときには、裁判所書記官の動きに合わせてください。
法廷では録音録画は禁止されています。メモをとることは構いません。また、法廷内の様子をスケッチすることは構わない。
法廷内では私語が禁止されています。一緒に行っている人と話すときには、ひそひそ声で話し、審理の邪魔にならないようにしてください。

食事や買物をするときは?

東京の裁判所は地下に食堂や喫茶室があります。エレベーターで地下に降りて、ご利用ください。先程まで法廷で見かけた裁判官や弁護士が近くのテーブルで食事していることもあります。
地下には、コンビニ(ファミリーマート東京高等裁判所店内店)もあります。